長年にわたり日本人の死因の上位であるがんですが、治療にあたって公的医療保険制度が適用されなかったり、治療方法によっては自己負担額が大きくなったりする場合もあります。
この記事では、ファイナンシャルプランナーのタケイ 啓子さん監修のもと、がん保険の必要性を解説します。がん保険が必要な人や不要な人の特徴もご紹介するので、ぜひ参考にしてください。
この記事の監修者
タケイ 啓子(タケイ ケイコ)
ファイナンシャルプランナー(AFP)。36歳で離婚し、シングルマザーに。大手生命保険会社に就職をしたが、その後、保険の総合代理店に転職。保険の電話相談業務に従事。43歳の時に乳がんを告知される。治療を経て、現在は治療とお金の相談パートナーとして、相談、執筆業務を中心に活動中。
がん保険が必要な理由は?
がん保険とはがんになった時に経済的な負担をカバーするために加入する保険です。がんは一般的な医療保険でも保障の対象となっています。しかし、がんの治療は長引くことが多く、転移や再発の可能性もあるため、一度がんになるとその後も油断ができません。そのため、給付金が支払われる入院日数に限度がある医療保険ではなく、がんに特化した保険で備えておくことが大切なのです。
ここでは、がん保険が必要だといわれる主な理由を2つ、詳しく解説していきます。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
理由①がんと診断された際にまとまった給付金を受け取れるから
がん保険に加入すると多くの場合、がんと診断された際に「診断一時金」という給付金を受け取れます。この給付金は、入院の準備に必要な支出や生活費の補填、治療費そのものなど、様々な用途に使えるため、生活を助けてくれることでしょう。
なお、会社員がケガや病気によって働けなくなると最長1年6カ月にわたって給料の2/3にあたる「傷病手当金」を公的医療保険制度から受け取ることができます1)。しかし、それだけで十分な資金を確保できるわけではないため、ほかの方法でお金をまかなわなければなりません。さらに、自営業者や個人事業主の人の多くが加入する国民健康保険には、原則として傷病手当金がありません。そんな時に、まとまったお金が受け取れることは安心につながるでしょう。
理由②がんに特化した保障を受けられるから
がん保険は、がん治療特有の事情に配慮した保障内容になっています。「診断一時金」以外にも、「入院給付金」「手術給付金」「通院給付金」など、がんに特化した様々な保障が受けられます。
ほかにも、指定した治療を受けた際の「治療給付金」や、先進医療に対する「先進医療給付金」が給付される保険もあります。
これらは生活を支えるだけでなく、がん治療の選択肢を広げてくれることでしょう。
がん保険がいらないといわれている理由は?
がん保険が必要といわれている一方で、「がん保険はいらない」という意見もあります。主な理由は以下のとおりです。
それぞれ詳しく解説します。
①医療保険に加入していればカバーできるから
通常の医療保険にがん特約を付ければ、わざわざがん保険に加入する必要はないという意見があります。確かに、がん特約でも診断給付金など、一定の保障は受けられるでしょう。だからといって、がん保険が必要ないとはいえないのです。
厚生労働省の患者調査によると、がんの入院日数は2008年には23.9日でしたが、2020年には20日を切るほどに年々短くなっています2)。こうした医療事情から、入院給付金が主体の医療保険に加入していても、がん治療の場合は、あまり多くの給付金を受け取ることができない場合があります。
ただし、医療保険のがん特約はがん保険よりも安い値段で特約を付けられるメリットもあります。自身のリスク許容度に応じて選択するのがいいでしょう。
②公的医療保険制度が充実しているから
公的医療保険制度が充実しているから、がん保険に入らなくてもいいという人もいることでしょう3)。しかし、がんになって治療が長期間にわたる場合は、3割の自己負担でも家計の大きな負担になります。
公的医療保険における制度の1つである高額療養費制度は、医療機関や薬局の窓口で支払った金額が、ひと月(月の初めから終わりまで)で上限額を超えた部分の支給を受けられます。ただし、先進医療技術にかかわる費用の部分は、高額療養費制度が適用されません。また、高額療養費は、保険医療機関などから提出される診療報酬明細書の確認が必要であることから、診療月から支給までに3カ月以上かかります。
参考資料
③支払った保険料がもったいないから
どの保険にもいえますが、がんにならなければ支払った保険料がもったいないという意見もあります。
少しでも保険料を無駄にしたくない人には貯蓄型の保険を選ぶ手もあります。貯蓄型なら満期保険金や解約払戻金が受け取れるため、資産形成にも役立つでしょう。
がん保険の加入を検討したほうがいい人の特徴
がん保険が必要な人の特徴は以下のとおりです。
それぞれ詳しく解説します。
十分な治療費を用意するのが難しい人
がんになった場合、十分な治療費を用意できない人は、保険で備える必要性が高いでしょう。がんになった場合、1日に必要な入院費用の平均は1万8,668円、平均在院数は18日間といわれています4)。
上記を参考にすると、入院費用だけで33万6,024円が必要になります。また、差額ベッド代や入院後の治療費を考えると、それ以上かかる可能性は十分考えられます。
この金額を1つの目安とし、費用を用意できない、もしくは一時的に用意できたとしてもその後の生活が厳しくなる場合、がん保険の加入を検討してみるのがおすすめです。
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参考資料
治療の選択肢を広げたい人
がんの治療には、数多くの方法があります。中でも最近利用者が増えているのが「先進医療」を選択してがんを治療するケースです。
先進医療とは、高度な医療技術を用いた治療法などのうち、厚生労働大臣の承認を受けたもののことをいいます。有効性や安全性について一定の基準を満たしているものの公的医療保険制度の対象になっていない場合は、高額な技術料が自己負担になります。
先進医療を自費で受けるのは経済的な負担が大きいため、がん治療の選択肢を広げたい人は、先進医療を受けた時にその技術料と同額の給付金が受け取れる「先進医療給付金」を付帯したがん保険で備えておくといいでしょう。
自営業者や個人事業主
自営業者や個人事業主は、会社員に比べて公的な支援が薄いため、保険に加入する必要性は高いでしょう。収入がなくても生活できる貯蓄があれば問題ありませんが、厳しい場合はがん保険をはじめ、医療保険や就業不能保険に加入しておくのがおすすめです。
特にがんになった場合、継続的な投薬治療や、再発・転移などで治療を再開するケースも含めると、数年単位で仕事に支障が出ることも考えられます。自分が働けなくなった時のリスクも考慮しておくと安心でしょう。
年代別で見るがん保険の必要性
以下では、年代別にがん保険の必要性を解説します。年代によって考えるポイントが異なるので、ぜひ参考にしてみてください。
20代の場合
20代でがんになる確率は低く、男性が0.3%、女性が0.5%です5)。しかし、年を重ねるごとに罹患率は上がっていきます。がん保険は加入年齢が若いと保険料が安くなるため、若いうちに加入するほど保険料が安くなります。
20代でがんになった場合、傷病手当金などの公的保障はあまり期待できません。日本の失業保険は年齢が若いほど手当金が低いためです。
さらに、20代は「自分は大丈夫だろう」と受診しない人も多く、知らぬ間にがんが進行している可能性もあります。生活が窮屈にならない範囲で、がん保険の加入を検討してみましょう。
30代の場合
30代は家庭を持つ人も多くなる年代です。男性が0.6%、女性が1.6%とがんの罹患率は少しずつ上がっていきます5)。30代も保険料がまだ安い年代なので、早めの加入を考えましょう。
すでに家庭がある場合、治療費がかさんで家族の生活が苦しくなる可能性もあります。がんに対する治療だけでなく家族の生活を守るためにも、がん保険は役立つでしょう。
40代の場合
40代のがんの罹患率は男性1.6%、女性4.2%で女性の罹患率が急激に上がります5)。また、50代になると保険料が高くなるため、40代のうちにがん保険に入るのも1つの方法です。
40代はまだまだ働き盛りの時期です。がんの罹患リスクに備えるなら、入院費や手術費、治療費、入院中の生活費など、広範囲でカバーできるがん保険を選ぶのがおすすめです。
50代の場合
50代になると、男性が5.2%、女性が6.7%と男女共にがんの罹患率が高まります5)。保険料も上がるタイミングでもあります。
家庭がある場合には、教育資金・住宅ローン・介護費用など、様々な面でお金が必要となる時期でもあるでしょう。
がん保険の選び方としては、収入・貯蓄・家族構成・公的医療保険制度を使用した場合の経済的負担などを加味して保障内容を決めるのが適切です。公的保障でカバーできない部分を、民間のがん保険で補うのがいいでしょう。
60代の場合
60代のがんの罹患率は男性が15.7%、女性は10.4%と高く、治療が長期化しやすい年代です5)。そのため、長期治療に備えられるがん保険を選びましょう。
選び方としては、定年したあとも治療の継続を考慮することが重要です。高額医療費制度などを利用したとしても、定年退職後は年金でまかなえない可能性があります。現在の貯蓄なども考慮して、保障内容・保障期間・保険料などを決めましょう。
がん保険の代表的な特約
がん保険の代表的な特約として、以下が挙げられます。
特約の内容を把握して、がんへの備えを万全にしましょう。
①保険料払込免除特約
保険料払込免除特約とは、保険会社が定める所定の状態となると、将来の保険料の支払いが免除される特約です。がん保険の場合、がんと診断されると保険料の支払いが免除されるケースが多いでしょう。
注意点は、上皮内がんが特約の対象外となっている場合がある点です。また免責期間がある場合、免責期間中にがんと診断されると免除されない可能性もあります。
②抗がん剤・放射線治療特約
抗がん剤・放射線治療特約は、これらの治療を受けた時に給付金を受け取れる特約です。
高額療養費制度が適用されたとしても、抗がん剤・放射線治療の料金は高額です。昨今は通院での治療が主流となっており、入院給付金が受け取れないケースが増えつつあります。そういった場合でも、抗がん剤・放射線治療特約があれば保障を受けることができます。
③先進医療特約
先進医療特約は、先進医療を利用した際にかかった費用を特約の範囲内で保障するものです。
東京海上日動あんしん生命のがん保険にもがん先進医療特約があり、所定の先進医療を受けた際に通算2,000万円を限度として同額の給付金が受け取れます。
先進医療技術は都度見直しが行われており、これまで先進医療とされてきた技術が除外されるケースもあります。治療を受けた段階で先進医療から除外されている場合は、特約の対象外です。特約の条件はよくチェックしましょう。
④通院特約
がんと診断されて通院治療となった際に給付金を受け取れる特約です。近年は通院によるがん治療が主流となりつつあります。東京海上日動あんしん生命の「あんしんがん治療保険」と「がん診断保険R」には、どちらもがん通院特約が用意されています。「あんしんがん治療保険」の場合、設定金額によって日額3,000円~2万円の受け取りが可能です。
がん保険を選ぶ方法や医療保険との違いについては以下の記事で詳しく解説しています。興味のある人は確認してみてください。
【関連記事】がん保険の選び方や医療保険との違いについて、詳しくはコチラ
治療に専念するためにがん保険に加入しよう
がん保険に加入するかの判断基準は、治療費を払えるだけの貯金があるかどうかが1つの目安となります。がん保険に加入した場合、がんと診断された際に診断給付金をもらえるほか、がんに特化した保障を受けられます。貯金が少なく十分な治療費を用意することが難しい人は、がん保険に加入して、万が一に備えるのがおすすめです。