この記事では、ファイナンシャルプランナーのタケイ啓子さん監修のもと、個人年金保険料の所得控除について解説。控除の対象となる条件や軽減される税額のシミュレーション、控除の申告方法などについてご紹介します。
この記事の監修者
タケイ 啓子(たけい けいこ)
ファイナンシャルプランナー(AFP)。36歳で離婚し、シングルマザーに。大手生命保険会社に就職をしたが、その後、保険の総合代理店に転職。保険の電話相談業務に従事。43歳の時に乳がんを告知される。治療を経て、現在は治療とお金の相談パートナーとして、相談、執筆業務を中心に活動中。
個人年金保険の保険料は控除の対象となる
個人年金保険とは、公的年金に上乗せ補填する目的で、自身で老後の準備をするための民間の保険です。契約時に決めた年齢に達するまで保険料を払込み、その後は保険料に応じた年金を受け取ることができるのが特徴です。
個人年金保険に支払った保険料は、一定の条件を満たせば個人年金保険料控除として所得税・住民税の控除の対象となり、一定金額の控除を受けることができます。
なお、以下の記事では個人年金保険のしくみを詳しく解説しています。気になる人は併せて確認してみてください。
個人年金保険の控除額は?
続いて個人年金保険の控除額について見ていきましょう。個人年金保険の控除額は、契約を締結した時期によって異なります。平成24年1月1日以後に締結した契約は「新契約」、平成23年12月31日以前に締結した契約は「旧契約」扱いになります1)。
これから加入を検討している人は、以下の控除額の計算方法を参考に算出してみてください。
〈表〉新契約の控除額の計算方法
年間の支払保険料等 | 控除額 |
---|---|
2万円以下 | 支払保険料等の全額 |
2万円〜4万円以下 | 支払保険料等 × 1/2 + 1万円 |
4万円〜8万円以下 | 支払保険料等 × 1/4 + 2万円 |
8万円超 | 一律4万円 |
たとえば、保険料の払込金額が年間8万円を超え、課税所得が300万円だったとしましょう。この場合の所得税率は10%です。そのため、生命保険料控除による所得税の節税効果は4,000円(4万円 × 10%)となります。
個人年金保険料控除の対象となる条件
個人年金保険料控除は、単に個人年金保険に加入していれば活用できるというわけではありません。個人年金保険料控除を活用するには、その保険に個人年金保険料税制適格特約が必要となります。
個人年金保険料税制適格特約とは、生命保険料控除のひとつで個人年金保険料控除を受けるために付加する特約のことです。
また、個人年金保険料控除の対象となるには、以下の3つの条件をすべて満たさなくてはなりません。
個人年金保険料控除の対象となる条件2)
①年金受取人が契約者(保険料負担者)または契約者の配偶者であること
②保険料払込期間が10年以上あること
③年金の種類が確定年金の場合、年金支払開始日の被保険者の年齢が60歳以上であり、かつ年金支払期間が10年以上あること
個人年金保険料税制適格特約は上記の条件を満たしていれば途中で付けることもできます。すでに保険料を一時払で支払ってしまっている場合や年金の受取期間が5年など10年未満で固定されている場合は、途中で付けることはできません(生命保険料控除について詳しくは後述)。
〈図〉個人年金保険料控除を活用した場合に受けられる控除
個人年金保険料控除の申告方法は?
個人年金保険料控除を適用するには、毎年10〜11月頃に生命保険会社から送られてくる控除証明書が必要です。ただし、個人年金保険料控除の申告方法は、会社員と個人事業主で異なります。
会社員の場合は、年末調整手続きのために記入する「給与所得者の保険料控除申告書」に、生命保険会社名や控除金額などを記載し、控除証明書とともに勤務先に提出します。一般的に、軽減額は12月か翌年1月の給与とともに還付されます。
確定申告が必要な個人事業主の場合は、確定申告書の生命保険料控除の欄に金額を記載し、控除証明書とともに税務署へ提出します。控除された分だけ税額が減り、すでに納めている税額のほうが多い場合は還付を受けることができます。
個人年金保険の節税シミュレーション
個人年金保険控除を受ける場合の節税効果について、以下の2つのケースのシミュレーションをご紹介します。
ケース①所得税率10%・毎月1万円の保険料の場合
所得税率10%・毎月1万円を支払う場合にいくらの節税になるかをシミュレーションしてみました1)3)。
〈表〉所得税率10%・毎月1万円の保険料の場合
種類 | 年間控除額 | 年間合計節税効果 |
---|---|---|
個人年金保険 | 所得税4万円/住民税2万8,000円 | 6,800円 |
毎月1万円の保険料なら、年間で12万円払っていることになります。控除は最大4万円なので、所得税の控除は4万円です。たとえば年収500万円で所得税率10%の人の場合は、4,000円(4万円 × 10%)の節税が見込めます。
住民税は、控除額が所得税と異なり最大2万8,000円です。税率は10%ですので、2,800円(2万8,000円 × 10%)の節税が見込めます。
所得税と住民税の合計で6,800円の節税効果があることがわかります。
ケース②所得税率20%・毎月2万円の保険料の場合
続いて、所得税率20%・毎月2万円を支払う場合にいくらの節税になるかを見ていきましょう1)3)。
〈表〉所得税率20%・毎月2万円の保険料の場合
種類 | 年間控除額 | 年間合計節税効果 |
---|---|---|
個人年金保険 | 所得税4万円/住民税2万8,000円 | 1万800円 |
毎月2万円の保険料なら、年間で24万円払っていることになります。控除は最大4万円なので、所得税の控除は4万円で、保険料1万円の時と同じです。しかし、年収800万円で所得税率20%の人であれば、8,000円(4万円 × 20%)と節税額は倍になります。
住民税の税率は10%で変わりませんので、2,800円(2万8,000円 × 10%)の節税になります。
所得税と住民税、合計で1万800円の節税効果があることがわかります。
参考資料
生命保険料控除を最大限活用するポイントは?
前提として、民間の保険は加入内容に応じて「一般生命保険控除」「介護保険控除」「個人年金保険控除」に分類され、年間の支払額に応じてそれぞれ最大4万円(3つで最大12万円)の生命保険料控除が受けられます4)。
〈図〉新契約の生命保険料控除
つまり、保険料控除を最大限活用するなら、個人年金保険だけでなく生命保険や介護保険なども一緒に入るのがいいでしょう。
ただし、所得控除のために保険に加入するのは本末転倒でもあります。保険は必要に応じて加入することが大切です。
参考資料
制度を理解して税制優遇を受けよう
個人年金保険料控除は、1年間で支払った保険料に応じて所得から控除できる制度です。新制度の場合は、最大4万円の所得控除を受けることができます。また最大限控除を活用するには、個人年金保険料税制適格特約を付ける必要があります。正しく制度を理解して、節税対策をしましょう。