一般社団法人 生命保険協会が発表した「2019年版 生命保険の動向」によれば、「1世帯当たりの個人保険の加入件数が多い県」TOP3は、福井・山形・富山の順番。また、鳥取や新潟、石川も上位に名を連ねています。
なぜ北陸を始めとして日本海側は保険加入件数が多いのか? 上位3県の県民性を紐解けば、そのヒントが見えてくるかもしれません。
11年連続で増加している個人保険。上位3県は福井・山形・富山県
「2019年版 生命保険の動向」によれば、平成30年度末の個人保険の保有契約件数は1億8129万件。11年連続で増加しているそうです。保険種類別の内訳は、終身保険が22.0%で最も多く、医療保険の21.2%、ガン保険の13.8%、定期保険の13.7%、養老保険の7.3%と続きます。
ちなみに、終身保険は一生涯死亡保障が続き、定期保険は一定の期間内の保障で、いずれも死亡した場合には死亡保険金を受け取れます。医療保険は病気やケガで、ガン保険はガンで入院したり手術したりした時に給付金が支払われる保険。養老保険は、一定の保険期間内に死亡した場合には死亡保険金を、満期時に生存していた時には満期保険金が支払われるものです。
このように、もしもの時の“人生の支え”ともなる個人保険は1世帯当たり加入件数の全国平均は3.18件。しかし、上位3県である福井は4.85件、山形は4.38件、富山は4.34件と、いずれも4件を超えています1)。
〈図〉1世帯当たりの個人保険の加入件数が多い県TOP10
突出した数字には、県民性や金銭感覚にも関係があるはずです。そこで、今回も県民性博士の矢野新一さんにお話を伺いました。
お話を聞いた人
矢野新一さん
株式会社NO.1戦略研究所 所長。市場調査機関を経て、株式会社ランチェスターシステムズに入社。企業のランチェスター戦略導入に東奔西走。その後、現研究所を設立、現在に至る。著書に『ランチェスター戦略の教科書』『犬猿県』など60冊を超える。
ウェブサイト
社長と共働きが多い福井県。特に女性の“もしも”のための対策はバッチリ!?
まず、最も加入件数が多い福井県。矢野さんによると「社長と共働きの多さが、県民性の2大特徴」とのこと。
実は福井県は、都道府県別の人口あたりの社長数が38年連続でトップの県なのです2)。また、女性就業率と共働き率もともに全国1位3)。古くから繊維産業や眼鏡産業が盛んで、家内制手工業的に女性が働く環境があり、独立資本の零細企業も多かったことが、女性の活躍や社長の多さの一因とも言われています。
個人保険の加入件数が多いのは、自営業や共働きが多い土地柄、“もしもの時”に備える感覚が他の土地よりも養われていることはあるでしょう。
「特に女性の金銭感覚がしっかりしており、基本的に消費は少なめ。あまり無駄遣いはしません。ただし、結婚式などにはお金をかけてしまう面も持っています」
『おしん』でも描かれた実直で働き者、質素倹約な県民性の山形県
契約件数第2位の山形県。ドラマ『おしん』や名君主・上杉鷹山に見られる、質素倹約、実直で、難儀にも耐えコツコツと働く県民性をイメージする人も多いのではないでしょうか。
矢野さんも「概ね、その通り。一生懸命に働き、流行りやムードに流されない県民性です。やはり、堅実な性格が個人保険の加入数の多さにつながったのではないでしょうか」と分析します。
それだけに、金銭感覚は堅実の一言。「基本的に、無駄なお金は使いません」と矢野さん。米沢藩は財政難に悩まされることが多く、前述の上杉鷹山に代表される倹約藩政が行われていました。その清貧の思想が根付いているのかもしれません。
ちなみに、山形県は庄内地方と最上地方では大きく文化が異なり、有名な芋煮も味付けが異なるそうです。矢野さんによると「庄内地方は酒田を中心にして、大阪との北前船貿易が盛んでした。関西文化圏で、華やかです。一方、最上地方は山間部で雪深い。こちらのほうが、コツコツと実直に仕事へと取り組み、無駄遣いをしない傾向が強い」とのこと。
また、福井県と同じく共働き率が高いのも特徴4)。「働き者の女性が多く、秋田には“嫁は山形からもらえ”という言葉があるくらいです」と矢野さん。人間関係を重視したり、結婚式などにはお金をかけたりするなど、使い方にメリハリがあるのも福井県と似ているすです。
合理的で真面目な富山県民だけど、「越中強盗」なんて物騒な呼び名も……
契約件数第3位は富山県。矢野さんは「個人的には、全国の中でもっとも真面目。そして、勤勉な県だと思う」と語ります。
その一例としてあげたのが、エコバックの持参率。レジ袋有料化が実施される前の2019年の段階で、すでに95%を達成していたそうです5)。
矢野さん曰く「真面目さもあるが、無駄なお金を使わないという面も見てとれます」とのこと。富山県の県民性として、とても合理的で、お金使いに限らず無駄を嫌うのだとか。考えてみれば、使った分だけを支払うという富山発祥の置き薬も、非常に合理的なビジネスです。
真面目で勤勉、合理的な県民性もあり、財をなした人が多かった富山県民。矢野さんの言葉を借りると「越中強盗」と少し物騒なあだ名もあったそうです。
もちろん、実際に盗人が多かったわけではなく、「強盗をして貯めたくらいお金を持っている」という他県民の妬みから生まれた言葉。確かに、富山県は持ち家率で長らく日本一を続けていますし、富山市は1カ月平均の可処分所得が全国4位です6)7)。
無駄なお金を使わない県民性の由来には、厳しい自然環境もあります。立山連峰からの雪解け水は、河川の氾濫を起こし、何度も不作を引き起こしました。「そういった不測の事態に備えての蓄財という面もあったのでしょう。これは、保険加入の多さにつながると思います」と矢野さんは分析します。
個人保険加入件数が上位の県に共通するのは、共働きと社長の多さ!
「上位3県に共通するのは、【共働き率】【真面目で勤勉】【教育熱心】【社長輩出率の高さ】」と矢野さん。
例えば、「就業構造基本調査」(2017年)によると、共働き率の上位3県は福井・山形・富山県で、個人保険加入件数と一致8)。社長輩出率も1位福井県、3位富山県、4位山形県となっています。
ちなみに、個人保険加入件数6位の石川県も社長輩出率10位、共働き率4位と高い順位です。また、個人保険加入件数10位の新潟県も社長輩出率6位、共働き率8位。個人保険加入件数4位の鳥取県は共働き率7位、5位の佐賀県は共働き率10位、8位の徳島県は社長輩出率5位となっています。
ここまで見ていると、共働き率が高いので夫婦それぞれが保険に入ったり、社長なのでサラリーマンよりも手厚く保険に入ったりしている可能性はあるでしょう。教育熱心なのは、学資保険の充実にもつながります。
また、個人保険の加入件数を読み解くと、上位は北陸を始めとした日本海側の県が多いことも分かります。上位10県のうち6県は日本海側なのです。矢野さんは「日本海側は太平洋側に比べると、冬の自然環境が厳しかったり、京都や江戸までの距離が遠かったり道のりが険しかったりすることで、必ずしも裕福な藩ばかりではありませんでした。そういった経験から、いざという時に備える県民性が備わり、それが個人保険の加入件数の多さにつながったのではないでしょうか」と読み解いてくれました。
イラスト/石井里果
この記事の著者
笹林 司
ライター。インタビュー記事を中心に、ビジネス、自動車、最先端技術など、様々な分野の媒体に寄稿。複数分野の視点を組み合わせることで、少しだけためになる記事を目指しています。