「ちょっと期待外れ……」という程度なら良いのですが、なかには「二度とデートしたくない!」と思ってしまうほど、ショッキングな体験をした人もいるのではないでしょうか? 今回は、かつて発表された、ショッキングなデートで受けた“損害”を補償してくれる奇妙な保険についてご紹介しましょう。
初デートで受けた精神的ダメージのほか、デートの準備費用も補償
その保険とは、イギリスのある保険比較サイトが2013年に発表した「初デート保険(Date Insurance)」です。初デートに誘ってくれた相手の態度や人柄が悪かったり、選ばれたデートの場所が“最悪”だったりした場合にこうむった精神的損害のほか、美容院代や洋服代などの初デートの準備にかかった費用(経済的損害)まで補償してくれるというものでした。被保険者が女性限定だったというのも、ユニークな特徴といえるでしょう。
ちなみに、「最悪なデートスポット」の例として挙げていたのは「手術現場」、「棺桶工場」、「下水処理場」、「スーパーのフードコート」、「電車を見に行く」などでした。手術現場や棺桶工場は、まずあり得ないシチュエーションですが、スーパーのフードコートや電車を見に行くといったあたりは、可能性としてありそうな気もするのが気になるところですよね?
また、相手の態度や人柄については「自分の話ばかりで相手の話を一切聞かない」、「飲酒をすると急に暴力的になる」などが具体例として挙げられていたとのこと。
もちろん、デートの場所や相手の態度に対して受ける印象は人それぞれですから、挙げられた例に限らず、被保険者がダメージを受けたという主観が尊重されていたようです。
なお、この「初デート保険」、ここまで具体的な内容を発表していましたが、じつはジョーク商品でした。ニュースなどで取り上げられ、話題になったことを考えると、ある程度需要はあったと考えられそうです。
「初デート保険」はジョーク商品だったとはいえ、ここで疑問が浮かびます。
こんなに主観によって左右される保険は、成り立つものなのでしょうか? 精神的な被害を受けて慰謝料を請求…などという事案は、ゴシップニュースでもよく見るので、ありそうなものですが…。
そもそも保険金が支払われるためには、どのような手続きや条件が必要になるのか。保険のしくみに詳しいマネーコンサルタントの頼藤太希さんに聞いてみました。
お話を聞いた人
頼藤太希さん
Money&You代表取締役/マネーコンサルタント。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生保にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に(株)Money&Youを創業し、現職へ。女性向けWebメディア『FP Cafe』や『Mocha(モカ)』を運営すると同時に、マネーコンサルタントとして、資産運用・税金・Fintech・キャッシュレスなどに関する執筆・監修、書籍、講演などを通して日本人のマネーリテラシー向上に注力している。『投資信託勝ちたいならこの7本!』(河出書房新社)、『入門 仮想通貨のしくみ』(日本実業出版社)など著書多数。日本証券アナリスト協会検定会員、ファイナンシャルプランナー(AFP)、日本アクチュアリー会研究会員。
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保険金を請求する際にもっとも大切なこととは…?
「『初デート保険』のような海外のジョーク保険は、ほかにもサッカーW杯で、応援している国が敗退した場合の精神的ダメージに備える『サッカートラウマ保険』などがあったようですね。
これらは“精神”という、目に見えないものが、補償の対象となっていた事例です。事故等の損害保険などに比べるとわかりにくいですが、今回はうつ病などの精神疾患により働けない状態になった場合の収入減をカバーする『就業不能保険』を例に紹介しましょう。
まず、保険金を請求するためには、以下の書類が必要になります。
(1)保険会社が用意する保険金の請求書
(2)働けない状態であることを証明する医師の診断書
(3)免許証やパスポートなど受取人の本人確認に必要な書類
※事故によるケガの場合は事故の証明書なども必要となります。
また、こうした書類とあわせて保険会社から質問される、発病日や在宅療養の期間といった就業不能状態の詳細に回答する必要もあります」
頼藤さんによれば、この時もっとも重要なのが(2)の「診断書」だそうです。仮に「初デート保険」がジョーク保険ではなかった場合でも、ここが支払いのポイントになるだろうといいます。
「保険金の給付に欠かせない条件は、損害を示す客観的な“証拠”があることです。たとえば病気やケガの場合には、医師の診断書がそれにあたります。『初デート保険』の場合、いちばん難しいのは初デートで受けた精神的ダメージの証拠を、どのように提示するかでしょう。そのためには医師の診断書が必要になるのだと思いますが、実際に診断書を書いてもらうのは、なかなか難しいでしょうね」
一方で「初デートの場所」ならば、証拠の提示が比較的容易かもしれないとも、頼藤さんは指摘します。
「仮に、保険会社が『棺桶工場』などいくつかの場所を損害の対象として例示していて、その場所で初デートをしたことがわかる写真や映像を撮っておけば、十分な証拠になる可能性はあると思います。しかし、もし例示されていなければ、『初デートの場所として酷すぎる』と感じても、その人の主観だけを根拠にして保険金が支払われることは難しいでしょう」
もちろん今回の『初デート保険』は、ジョーク商品であることが明示されていたわけですが、保険金の支払いを受けるためには、受けた損害を客観的に証明する“証拠”が必要である、ということを理解するための、よい材料になったといえるかもしれません。
ちなみに、たとえば物品の損害なら、損害の状況がわかる写真や映像が証拠になり得ますし、上司から言葉によるハラスメントを受けた場合には録音データが証拠となることもあるそうです。証拠を残しておくことが『もしも』への備えとなることは、知識として覚えておいてもよいのではないでしょうか?
イラスト/石井あかね
この記事の著者
石井敏郎
いしいとしろう。フリーランスの編集者・ライター。神奈川県横浜市出身。格闘技からITまで、幅広いジャンルの記事制作に関わっている。