働けないことによる収入減少をカバーする保険として就業不能保険がありますが、うつ病をはじめとする精神疾患は保障の対象外になる商品が多い傾向があります。
この記事では、ファイナンシャルプランナーのタケイ 啓子さん監修のもと、就業不能保険におけるうつ病の取り扱いを解説。うつ病でも利用できる公的保障もご紹介するので、確認してみてください。
この記事の監修者
タケイ 啓子(たけい けいこ)
ファイナンシャルプランナー(AFP)。36歳で離婚し、シングルマザーに。大手生命保険会社に就職をしたが、その後、保険の総合代理店に転職。保険の電話相談業務に従事。43歳の時に乳がんを告知される。治療を経て、現在は治療とお金の相談パートナーとして、相談、執筆業務を中心に活動中。
うつ病は就業不能保険の保障対象外の場合が多い
就業不能保険とは、ケガや病気で長期間働けない時の生活を金銭面で支えてくれる保険のことです。貯蓄が十分でない人にとって、いきなり収入が途絶えてしまうことは大きな不安でしょう。就業不能保険は、そのような金銭的不安を解消して暮らしていくためにおすすめの保険です。
生活費を補うという性質上、給付金は毎月お給料のように受け取るものが一般的です。また月々の生活費だけでなく、保険商品によっては仕事に就くことができない状態からの復帰後の生活を支える一時金を受け取れる場合もあります。
働けない期間の金銭的不安を解消してくれるメリットがある一方で、うつ病などの精神疾患を抱えている人は就業不能保険の保障対象外となる場合が多いのも事実です。
ただし、加入条件は保険商品によるため、うつ病などの精神疾患を抱えている人でも加入、または給付金の受け取りが可能なケースもあるでしょう。うつ病などの精神疾患がある場合は、保険商品の加入条件や給付条件を詳しく調べるようにしましょう。
うつ病が就業不能保険の保障対象外にされる理由は?
就業不能保険でうつ病が保障対象外とされる主な理由は、病状の判断が難しいためです。うつ病などの精神疾患は、何をもって「罹患・回復した」と判断するかが難しい病です。
保険商品には、公平性を担保しなければならない原則があります。ほかの契約者と不公平が生じないように保障するのが難しいことから、精神疾患は保障対象外とされるケースが多いのです。
うつ病などの精神疾患がある人でも加入しやすい保険はあるの?
うつ病などの精神疾患がある人でも、加入できる保険はあります。医療保険を中心に、以下の3タイプの保険はうつ病でも加入できる可能性があります。
それぞれの保険の特徴を詳しくご紹介します。
①引受基準緩和型の医療保険
持病や入院経験がある人におすすめなのは、引受基準緩和型の医療保険です。引受基準緩和型とは保険会社への告知項目が少なく、持病がある人でも加入しやすいように設計された保険商品です。
医療保険で多く取られている形態で、7大疾病を保障してくれる商品もあり、特約を付けることでさらに手厚くすることもできます。
ただし、一般的な保険に加入できない人に向けて引受基準を緩和しているため、保険料が割高になるケースがほとんどです。保険料が適正かを見極める必要はあるでしょう。
②無選択型の医療保険
無選択型の医療保険とは、健康状態に関する告知や医師の診査の必要なく加入できる保険商品です。そのため、うつ病がある人でも加入できる可能性が高いといえます。
ただし通常の医療保険とは異なり、以下のような注意点があります。
- 加入後一定期間は保障対象外である
- 保険料は通常の医療保険より割高になる
加入する際には、保障対象期間や保険料を確認しておきましょう。無理のない範囲で保険料を支払えるかを確認するのがポイントです。
③少額短期保険
少ない負担で保険に加入したい人におすすめなのは、少額短期保険です。少額短期保険とは、医療保険の場合は保険期間が1年以内と短期である代わりに、保険料を少額に抑えた商品です。
給付額はひとりの被保険者に対し、総額1,000万円と低く抑えられています。また、持病があっても入りやすい点や、一般の保険商品にはないニッチな商品があるところが魅力です。
なお、持病がある人が就業不能保険に加入できるかどうかは、以下の記事でも詳しく解説しています。興味がある人は、併せて確認してみてください。
【関連記事】持病がある場合の就業不能保険について、詳しくはコチラ
うつ病の人が就業不能保険を選ぶ際に注意すべきこと
うつ病の人が就業不能保険を選ぶ際には、以下の4つに注意する必要があります。
それぞれ詳しく解説します。
①持病があっても入れる保険か確認する
就業不能保険に加入を検討する際には、精神疾患に加えて持病の有無についても確認する必要があります。持病がある場合、そもそも保険に加入できない場合があるからです。
通常、保険に加入する際には申込書を記入します。保険の申込書の持病に関する告知事項欄に、「はい」が付く項目がある場合は加入できない可能性が高くなります。
自分で判断が難しい場合は、ファイナンシャルプランナーに相談するのがおすすめです。保険に加入できる見込みを見積もってくれたり、自分に合った最適な商品を提案してくれたりします。
②加入時にうつ病であることをありのままに申告する
就業不能保険に加入する際には、うつ病であることを必ず申告しましょう。申告せずに加入した場合は、告知義務違反になります。 告知義務違反が発覚すると、給付金は受け取ることができず、場合によっては契約解除の恐れがあります。 うつ病に限らず、治療や検査などの質問事項にはありのままを告知するようにしましょう。
③自宅療養は、医師の指示がある場合が保障の対象である
うつ病で自宅療養する時には注意が必要です。自宅療養が就業不能保険の保障対象となるのは、医師から指示された場合のみです。
「まだ働ける気分ではないから、自宅で安静にしよう」といった自己判断による自宅療養は、保険の適用対象外なので注意しましょう。
なお、自宅療養といっても「家事もできない状態」など条件がより厳しい保険商品もあるため、注意が必要です。いずれにせよ、支払い条件はよく確認しましょう。
④免責期間がある
就業不能保険には、一般的に免責期間があります。「免責」とは、加入している保険が「保障の責任を負いません」という意味で、この免責期間に該当すると保険による保障は受けられなくなります。
これはすでに自覚症状のある人が、保険に加入するのを防ぐのが目的です。また医療保険のように、入院したらすぐに保障されるわけではありません。保険に加入する際は自分がどの時期から保障対象になるかを、事前にしっかりと確認するようにしましょう。
なお、免責期間をはじめとする就業不能保険のデメリットは以下の記事で詳しく解説しています。気になる人は確認してみてください。
【関連記事】就業不能保険のデメリットについて、詳しくはコチラ
うつ病でも利用できる公的保障とは?
うつ病などの精神疾患で就業不能保険の加入が難しい場合でも、公的保障であれば利用できることがあります。
公的保障とは病気やケガで働けなくなった場合に、国や地方自治体から給付金を受け取れる制度です。
民間の医療保険とは異なり、事前加入や告知なしでも、お住まいの自治体の窓口に申請して条件を満たせば給付金を受け取れる可能性があります。
うつ病がある時に利用できる公的保険には、以下の5つが挙げられます。
それぞれ詳しく解説します。
①傷病手当金
業務外の病気やケガが理由で働けない時は、傷病手当金が利用できます。傷病手当金とは、健康保険などの被保険者が業務や災害以外の病気やケガで療養のため仕事を休み、給与などがもらえない時に申請・受給できる保険給付です。受給するには、健康保険の被保険者である必要がありますが自営業・個人事業主などの国民健康保険の被保険者は対象となりません。
傷病手当金の受給条件は、連続した3日間を含む4日以上、仕事に就くことができない状態が続いていることです。
また受給期間は、支給開始日から通算で1年6カ月までです。その間に職場に復帰した時期がある場合、その期間は受給期間に含まれません1)。
なお、傷病手当金について詳しくは以下の記事で解説しています。気になる人は確認してみてください。
②自治体の支援制度
各自治体も、仕事に就くことができない状態の人への支援制度を設けています。たとえば、東京都府中市では、以下のような支援制度があります2)。
〈表〉東京都府中市の障害者向け手当の一例
手当名称 | 対象者 | 金額 |
---|---|---|
心身障害者(児)福祉手当 | ①身体障害者手帳1・2級、愛の手帳1~3度、脳性麻痺および進行性筋萎縮症の人 ②身体障害者手帳3・4級、愛の手帳4度の人 | ①月額1万5,500円 ②月額7,500円 |
指定疾病者福祉手当 | 東京都難病医療費助成制度の医療券または特定医療費受給者証を持っている人 | 月額5,500円 |
なお、自治体によって保障内容は異なります。詳しくはお住まいの自治体のウェブサイトなどで確認してみてください。
参考資料
③障害年金
前提として、障害年金は障害基礎年金と厚生年金に分かれていて、片方または両方支給されるケースがあります。
国民年金に加入している人は、障害等級が1級または2級などの条件を満たせば障害基礎年金を受給できます。
障害基礎年金3)とは、障害や病気、ケガによって生活や仕事に制限が生じた場合に受給できる年金です。国民年金のひとつである障害基礎年金は、もらえる金額が手厚いことが特徴です。障害等級の認定基準例は以下のとおりです。
〈障害等級の認定基準例〉
1級:発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が欠如し、著しく不適応な行動がみられる人。日常生活への適応が困難で常時援助を必要とする人
2級:発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が乏しく、かつ、不適応な行動が見られる人
また、厚生年金に加入している人は、さらに障害厚生年金を受給できる場合があります。障害基礎年金の1級または2級に該当する障害がある場合、障害基礎年金に上乗せして障害厚生年金が受給可能です。
障害等級が3級に該当した場合は、障害厚生年金のみ受給できます。
〈図〉障害給付について
参考資料
④労災保険
業務中の事故や病気が原因で働けない状態になった時は、労災保険が利用できます。労災保険は社会保険に含まれており、会社員やパート・アルバイトといったすべての労働者が利用できる制度です。業務中だけでなく、通勤中の事故や病気も保障の対象です4)。
注意点は傷病手当金との併用ができないことです。しかし、同時に申請することは可能です。うつ病の原因は、業務中かプライベートか判断できない可能性があるでしょう。
どちらかの利用で迷っている場合には、傷病手当金と合わせて同時申請するのがおすすめです。
参考資料
⑤精神障害者保健福祉手帳
精神障害者であると認められる場合は、精神障害者保健福祉手帳を申請しましょう。手帳を持っていると、公共サービスや民間商品を通常より安く利用できます。具体例として、以下が挙げられます5)。
- バスや電車の運賃の割引
- 携帯電話の基本使用料金の割引
- 所得税や住民税の控除
精神障害者福祉手帳は給付金をもらえる制度ではありませんが、日常生活の金銭的負担を和らげる心強いものです。障害年金と併せて利用を検討してみましょう。
参考資料
うつ病などの精神疾患がある場合は幅広く保険を検討しよう
うつ病などの精神疾患があると、就業不能保険に加入することは難しいでしょう。しかし、就業不能保険以外にも加入・利用できる保険はあります。
また民間の保険商品以外にも、公的保障を利用する手もあります。自分がどのような保険や保障制度を利用できるか、幅広く探してみましょう。