世の中には、家計管理や資産形成といったお金に関する書籍が数多く出版されています。その中には「お金」をテーマにした漫画も少なくありません。

たとえば、資産運用をテーマにした『インベスターZ』、労働基準監督署を舞台に社会保険や年金のしくみを描いた『ダンダリン一〇一』など、実写ドラマ化した作品もあり、専門的な知識を楽しく漫画で吸収することは効率的な学びの方法の1つと言えそうです。

そこで“マンガソムリエ”として活動する兎来栄寿(とらい えいす)さんに「読めばお金に強くなる漫画」を選んでもらいました。

お話を聞いた人

兎来栄寿さん

10歳の頃から神保町やまんだらけに通い詰めジャンプ作品からトキワ荘・大泉サロン作家まで読み漁っていた生粋の漫画愛好家。少年青年少女漫画まであらゆるジャンルを愛する。漫画を読むのは呼吸と同じ。自分を育ててくれた漫画文化に少しでも恩返しすべく、日々様々な作品の布教活動を行うマンガソムリエ。
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“お金の知識”を学べる漫画は多種多様!

画像: “お金の知識”を学べる漫画は多種多様!

さっそくですが、「お金」をテーマにした漫画はどのくらいあるのでしょうか?

資産運用をはじめ、貯金・節約や経済、会社の運営、社会保険制度など、あらゆる「お金」にまつわることが漫画になっています。「漫画でわかる〜」という解説本も合わせれば膨大な数ですね。そして、肌感ですが、そういったお金をテーマにした漫画が年々増えているように思います。

なるほど、最近は何でも漫画で学べる時代なんですね。昔はあまり多くはなかったような気がします。

特に、インターネットが普及していった、ここ10年〜20年の間は、ITで起業するストーリー漫画や自分の投資・節約生活を記録したエッセイ漫画などが増えてきましたね。また、最近では仮想通貨やブロックチェーンなど、時代を反映した漫画が多いですよ。

どうして増えてきたのでしょうか?

やはり、個人で漫画を制作するハードルが下がったことに加えて公開できる媒体が増えたからでしょう。今の時代、漫画雑誌の連載に限らず、SNSやブログなどWEB媒体で手軽に世界へ発信できますからね。私も毎日、読むのに必死です(笑)。

なるほど。では、さっそくおすすめの5冊を教えてください!

兎来栄寿さん厳選!“お金に強くなる”漫画5選

数千年の時を超えて、人生とお金の真理を説く
『漫画 バビロン大富豪の教え』

画像: 著:ジョージ・S・クレイ、漫画:坂野旭、企画:大橋弘祐(文響社)▶︎ウェブサイト

著:ジョージ・S・クレイ、漫画:坂野旭、企画:大橋弘祐(文響社)▶︎ウェブサイト

約100年前に出版された『バビロンでいちばんの大金持ち(The Richest Man In Babylon)』という世界的なベストセラーを基にした漫画です。舞台は、金融の起源と言われている古代バビロニアの首都・バビロン。そのバビロンで富を築いた人たちによる「英知の結晶」がこの1冊にぎゅっとまとまっています。

どういった知識が学べるのでしょうか?

知識というのは、時代によって変わるものですよね。けれど、この物語に書かれている「『お金』と『幸せ』を生み出す5つの黄金法則」というのは、100年経った今でも、そしてこれから何百年経ったとしても通用するであろう原理原則なんです。この原理に則って売買すれば、仮想通貨のような新しいものが出てきた時も損をすることがなくなると思います。

なるほど!それはぜひ知っておきたいです。

また、この本の魅力は「お金儲けのテクニック」に加えて、人生で使えるようなTipsも含まれているところ。「お金を稼ぐだけではなく、幸せに仕事をするためには何が必要か」といった、充実した人生を送る方法も教えてくれています。人間として成長したいなら、読んでおいて損はない一冊だと思いますよ。

ちなみに印象的なシーンはありますか?

もともと奴隷だった人が、自分を救ってくれた人への「恩」を返すために働いているシーンです。「受けた恩を他の人に返していく」という循環が描かれており、人間社会の根本、そして本質を気づかせてくれました。お金は大事ですけど、お金を通じて人とどう関わっていくかはもっと大事なんだと思わせてくれます。

株のハードルを下げてくれる、オモシロ失敗談
『株ぢから 〜儲けるだけが株じゃない〜』

画像: 著:佐久間智代(新書館)(C)佐久間智代/新書館 ▶︎ウェブサイト

著:佐久間智代(新書館)(C)佐久間智代/新書館 ▶︎ウェブサイト

作者である佐久間先生自身の体験を描いた、投資エッセイ漫画です。タイトルに「儲けるだけが株じゃない」と書かれているように、作者なりの“損をしながらも株を楽しむ秘訣”が描かれています。これを読めば、株のハードルはだいぶ下がるでしょうし、そこまで難しく考えずに初めてみようかなと思えるでしょう。

「損をした人」の経験談っていうのも、逆に参考になりそうですよね。

そうなんです。投資の教本って、大抵は成功譚が多いじゃないですか? この漫画のように失敗を面白く描いた漫画って意外と少ないんですよ。また、登場するキャラクターは動物として描かれているため、小・中学生でもサクッと読める作品になっているんです。

兎来さん的に、特に心に残ったポイントは?

「大損しても自分が信じられる銘柄を選ぼう。それなら納得できる」という一文があるんですけど、これは株の真理だと思います。自分の好きな会社なら「応援したい」という気持ちで買うことができるじゃないですか? 現に作者も株主優待を目当てに食品会社の株を買っているため、たとえ株価が下がっても「この会社の新製品は美味しいからいいや」とか言ってますから(笑)。

(C)佐久間智代/新書館

株って、それくらいの軽い気持ちでやってもいいんだと思えそうです。

もちろん、正当に成功している『バビロン』のような漫画も読んでいただきたいのですが、一方で失敗している漫画も読んでおくと良いと思います。人間は失敗からも学べる生き物ですから。

失業中の“学び舎”を描き出す人情譚
『ぴっかり職業訓練中』

画像: 著:野村宗弘(日本文芸社)(C)野村宗弘 /日本文芸社 ▶︎ウェブサイト

著:野村宗弘(日本文芸社)(C)野村宗弘 /日本文芸社 ▶︎ウェブサイト

職業訓練学校の内情をリアルに描いた作品です。主人公は漫画家を志していた28歳の青年。しかし、全く芽が出ず、新たに就職しようと職業訓練学校に通い始めるところから物語がスタートします。あまり職業訓練学校にイメージがない人でも、この一冊を読むだけで十分理解できると思います。

「お金」は、どう関わってくるのでしょうか?

職を失ってお金に困っても、リスタートできるんだという希望を与えてくれると思います。昨今、コロナウイルスの影響で失業された人も少なくないですよね。職業訓練学校は失業してしまった時に、国からお金をもらいながら無料で技術や知識を学べる場所です。意外と、この制度を知らない人は多いと思うんです。

存在は知っていても、どんなところなのかはよくわからないですよね。

まずは、それを知ることが第一歩なのかなと思います。作中で「職人は誰でもなれる」というセリフがあるんですけど、本当に1年ほどここで学べば、立派な人材に育つそうなんです。ということは、仮に自分が起業に失敗しても、こういう道もあるんだって頑張れるような気がしませんか? いまの時代だからこそ、こういう漫画が増えてほしいと思います。

漫画のタッチもかわいいので読みやすそうです。

キャラクターも老若男女、個性豊かなんですが、途中で実写を交えて紹介してくれているのも、この作品の面白いところです。また、単行本の巻末コラムでは、元厚生労働省人材開発統括官を務めていた方のインタビューも載っているので注目です。株などのお金と直結するテーマではありませんが、違う側面からお金のことを考えてみるのもアリだと思いますよ。

世の父親たちのお小遣い制のやりくり事情
『定額制夫の「こづかい万歳」 ~月額2万千円の金欠ライフ~』

画像: 著:吉本浩二(講談社)(C)吉本浩二/講談社 ▶︎ウェブサイト

著:吉本浩二(講談社)(C)吉本浩二/講談社 ▶︎ウェブサイト

漫画雑誌『モーニング』で連載中の作品です。作者は「このマンガがすごい!」で1位を獲ったこともある吉本浩二先生。この漫画は先生自身の質素な生活を描いたドキュメンタリーです。3人の子どもがいて、月のお小遣いは2万1千円。でも、吉本先生は大好物の「おかし」に1万円使いたい。そんな葛藤が描かれたりします。

現実にいるお父さんのお小遣い事情……面白そうですね。

こんな話もありますよ。大学生が甘納豆を食べているのをみて自分も食べたくなるんですけど、いざ売り場に行ったら300円もする。それで、泣く泣く諦める姿は涙を誘います。

(C)吉本浩二/講談社

また、基本的には吉本先生自身の話が描かれているんですけど、その他にもお小遣いをやりくりしている男性の話がいっぱい出てくるんです。以前SNSでバズったのが「ステーションバー」の話。

ステーションバー?

駅の構内に自販機の隣に凹んでる場所があるじゃないですか? そこに陣取って、売店で買ったハイボールとおつまみを片手に人間観察するという飲み方です。とある男性が親子の笑い声や楽しい顔を見て言った「俺にとって……生の映画を観ているようなモンだよ……」ってセリフが、切なくも笑っちゃうんです。

限られたお金でいかに楽しむか。その尊さや知恵も授けてくれそうですね。

そう思います。かと思いきや、普通に参考になる話もあって、例えば「Pontaカード」を駆使するサラリーマンの話からはお得に暮らす節約術を学べますよ。令和に入り、消費税増税、年金不足問題、食品価格値上げなど、様々な問題がありますが、そんな時こそこの漫画を読んで頑張っていただきたいと思います。

仮想通貨からAIレジまで最新の事情を網羅
『ザ・テクノロジー マンガでわかる11の最新技術』

画像: 著:春夏アキト・クロウバー(幻冬舎コミックス) (C)AKITO HARUNATSU, CROWBAR, GENTOSHA COMICS ▶︎ウェブサイト

著:春夏アキト・クロウバー(幻冬舎コミックス) (C)AKITO HARUNATSU, CROWBAR, GENTOSHA COMICS ▶︎ウェブサイト

NewsPicks発の珍しい漫画です。内容としては10年以内に実用化されるであろう技術を研究する「未来技術研究部」という高校生の部活動を描いています。毎回、難しいテーマを扱っていますが、コミカルな絵で読みやすく、章末にあるコラムでも詳しく解説されているため、より理解が深められる構成になっています。

どんなテーマがありますか?

「ブロックチェーン」をはじめ「5G」、「3Dプリンター」、「VR(ヴァーチャル・リアリティ)」、「自動運転」といった、知っているようで実は理解していない最新技術などです。なお「仮想通貨」の章では、そもそも貨幣や通貨とは「信用」から成り立っているもの、という前提の説明をした上でビットコイン、モナコインなどの話を進めていきます。この章を読むだけでも「経済」の一端を理解できると思います。

(C)AKITO HARUNATSU, CROWBAR, GENTOSHA COMICS

あまり僕も理解してないので興味があります。

近年、ライブ配信サービスの投げ銭でお金を稼ぐ事例って多いじゃないですか? この漫画の連載は2018年なのですが「VTuber」の章では、今まではお金で物を買うことが当たり前だったけれど、これからの時代は「信用」が貨幣と同等の価値を持つようになるってことが書かれているんです。

その通りになっているわけですね?

画像45: マンガソムリエが選ぶ!“お金”に強くなる漫画5選

はい。2年前の作品なので、すでに実用化が始まっているものもあり、技術の進歩の速さを感じさせられます。また、この漫画は元々「AI無人レジ」が大宮駅で実装された際、作者自ら取材し、漫画化したものをツイッターにあげたんです。そして、その投稿がバズり、編集者の目に止まったことで連載がスタートしました。

連載のきっかけも今の時代らしい……。

画像47: マンガソムリエが選ぶ!“お金”に強くなる漫画5選

各テーマの第一人者が監修しており、これほど簡潔に最新技術を説明している漫画はないと思います。お金とは直接関係ありませんが、これを読めば、新しいビジネスのヒントを得られるかもしれません。

過去の作品からも得られるものがある。「お金漫画」の醍醐味とは?

画像: 過去の作品からも得られるものがある。「お金漫画」の醍醐味とは?

兎来さん自身も投資をされているそうですが、きっかけはやはり漫画の影響だったのでしょうか?

画像49: マンガソムリエが選ぶ!“お金”に強くなる漫画5選

そうですね。株は学生時代からやっていますが、確か『M.I.Q.』という株トレードの漫画に影響されたのがきっかけだったと思います。今読み直しても、十分お金の知識は蓄えられますよ。

10年以上も前の作品ですが、今でも役立つのでしょうか?

画像51: マンガソムリエが選ぶ!“お金”に強くなる漫画5選

もちろん最新の状況を反映している漫画は勉強になります。しかし、昔の作品を読み直しても、参考になる知識がたくさん詰まっています。それが「お金漫画」の特徴です。例えば、『銭』(著:鈴木みそ)という作品では様々な業界のコスト感を知ることができますし、『サラリーマン金太郎 マネーウォーズ編』(著:本宮ひろ志)ではお金を動かす時の心構えや資本家の口説き方などが学べます。

時代を超えた魅力ですね。

画像53: マンガソムリエが選ぶ!“お金”に強くなる漫画5選

きっと、これからも「お金漫画」はどんどん増えていくでしょう。というのも、老後の不安や昨今のコロナウイルスのような予期せぬ出来事から、国民のお金を蓄えることへの関心は高まりました。その興味を漫画から吸収するのも自然な流れだと思います。

硬い投資本や経済書はハードルが高くても、投資漫画ならすんなり入っていけそうです。

画像55: マンガソムリエが選ぶ!“お金”に強くなる漫画5選

日本では「お金を稼ぐこと=悪」といった風潮が蔓延していますよね? しかし、それってお金のことを知らないからなんですよ。そういう人こそ、ハードルの低い漫画で勉強してみてほしいです。学校では学べないことを、わかりやすく教えてくれますから。

それで国民全体のマネーリテラシーが高まれば、みんなが幸せになれる社会が作れると思いますよ。

撮影/澤田聖司

この記事の著者

小野洋平

1991年生まれ埼玉県育ち。編集プロダクション「やじろべえ」所属。服飾大学を出るも服が作れず、ライター・編集者を志す。お札を折りたくないので長財布派ですが、お札はあまり持っていません。
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