新型コロナウイルス感染が拡大し、非常事態宣言が発せられてから数カ月。“新しい生活様式”に則って生活や仕事環境が変化し、本格的に「ウィズ/アフターコロナ」時代が到来しています。

“人との密な接触を避ける”という前提に立った世界は、慣れない変化がある一方、新しい考え方が生まれる土壌にもなっています。そこで、これからの世界を生き抜くために知っておきたい「キャリアワード」について、有識者にインタビューを行いました。

今回のナビゲーターは、株式会社bajjiの代表を務めるなど、新時代のコミュニケーション手法を開拓している小林慎和さん。最近では、感情シェアと共感でウェルビーイングを実現する感情日記SNS「Feelyou(フィールユー)」も展開しています

そんな小林さんは、これからのビジネスシーンでは「リモートトラスト(Remote Trust)」が重要視されると予想します。今回はこのキーワードに焦点を当て、キャリアを切り拓くためのヒントを模索していきます。

【お話を聞いた人】

画像1: ニューノーマル時代のキャリアワード#2 小林慎和/「リモートトラスト」は、ビジネスに必須のスキルになる

小林 慎和さん(こばやし のりたか)

株式会社bajji CEO/BBT大学准教授/社会変革プロデューサー。大阪大学大学院修了。大学卒業後、野村総合研究所にて9年経営コンサルタントに従事。2012年シンガポールにて起業。以来、複数社起業し、倒産と会社売却を経験。2019年4月にブロックチェーンを活用したSNSを提供する株式会社bajjiを創業。2020年、マインドフルネスアプリ『Feelyou』を開発。主な著書に『海外に飛び出す前に知っておきたかったこと』、『リーダーになる前に知っておきたかったこと』(ともにディスカバー・トゥエンティワン)、『人類2.0 アフターコロナの生き方』(プレジデント社)
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意識変革で増大する「リモートトラスト」の重要度

画像1: 意識変革で増大する「リモートトラスト」の重要度

「リモートトラスト」とは、小林さんによる造語で、リアルで一度も会ったことがない中でも、リモートのやりとりだけで信頼関係を築くことができるビジネススキルのことを指します。

テレワークが浸透し、ウェブ会議やチャットワークなどを通じてコミュニケーションをとることが当たり前となった現在、ビジネスにおける信頼の蓄積の方法も変わってきているのです

小林さん自身、過去に会ったことのないビジネスパートナーに大型案件を発注したことがあり、当時は少なからず不安を覚えたそう。その経験を踏まえつつ、これからはリモートにおける信頼の構築がいっそう重要になると実感したとのことです。

では、ビフォアコロナの世には「リモートトラスト」の感覚はなかったのでしょうか?

「あったとは思いますが、あまり顕在化していなかったと思います。というのも、コロナ前のウェブ会議は、あくまでも補完機能、いわば“事前打合せ”が主な役割でした。後日直接会うことを前提としたもので、ウェブ会議で契約などの判断を行うことは少なかったはずです。しかし、テレワークの浸透により、『リモートであることは、ビジネス・コミュニケーションの障害にならない』と、多くのビジネスマンが認識し、リモートでのコミュニケーションが“本番”になるような意識改革が進んでいます」(小林さん/以下同)

“本番”すなわち、重大な契約などの意思決定がオンライン上で行われる機会が増えるとすれば、対面以外のコミュニケーションが、いかに相手の信頼を勝ち取るかを左右することがわかるでしょう。

〈図〉オンラインコミュニケーションの重要性の変化

画像2: 意識変革で増大する「リモートトラスト」の重要度

「リモートトラスト」はどうすれば身につくか?

とはいえ、これまでの感覚で言えば、やはり“ビジネスにおける信頼”とは、仕事の内容はもちろん、直接対峙した時に相手に与える雰囲気も含めて高めていくものでした。

では、“リモートで信頼を高める”ためには、具体的にどのようなことをするものなのでしょうか。

「とくに重要になるのは、ウェブ会議以外のメールや電話、チャットでのやりとりです。『リモートトラスト』は、相手の顔が見えない時のコミュニケーションでどう信頼を勝ち取るかが最も重要になります」

小林さんによれば、一度も直接会わないで重大な決定を下してもらえるような信頼関係を築くためには、とくにウェブ会議とウェブ会議の間にある、些細な情報のやり取りが重要だと言います。

相手が最も心地良いコミュニケーションは何かをとらえることが大切です。心地良さというのは、相手にとって最適なやり取りのスピード感だったり、話し方や伝え方だったり、メールであればテキストの雰囲気だったりします。

私は電話などで説明されて時間を取られるよりも、簡潔にまとめられた資料をメールやチャットなどで送っていただいたほうが心地良く感じ、好印象を抱くタイプです。一方、逆に口頭で話してもらえたほうが好印象という方もいるでしょう。

時間も人それぞれですよね。夜遅くはメールですら送ることを失礼だと思う方もいれば、時間に関係なくすぐに連絡をくれるほうが仕事をしやすいという方もいます。あとは、時間や約束を守ることは信頼獲得の大前提として、メールの返信なども意識するポイントです。すべてに“即レス”するのは苦しくなると思いますので、緊急性の高いものはなるべく早く返し、それ以外は放置しすぎないことを心がけたほうがいいでしょう」

〈図〉リモートトラストの有無によるビジネスの一例

画像: あくまでも一例ですが、チャットに慣れているクライアントなら、ツール選びにより密な情報提供・収集が可能になり、ウェブ会議を効果的に活用することにも繋がります。

あくまでも一例ですが、チャットに慣れているクライアントなら、ツール選びにより密な情報提供・収集が可能になり、ウェブ会議を効果的に活用することにも繋がります。

さらに、顔が見える機会であるウェブ会議上でのポイントとして、ユーモアや印象に残るような工夫をすることも大切だ、と小林さん。ある程度信頼関係を築けた状態であれば、ウェブ会議のツールで背景を変えたり、女性であれば画面越しで映えるようなメイクにしたり、ピアスは大ぶりな目立つものにしたりするなども、考えるポイントだといいます。

画像: 小林さんとのウェブ取材の一幕。下の画像では自社アプリ「Feelyou」の壁紙を利用した背景に切り替えています。このように、背景を利用して自社サービスの雰囲気を伝えるなど、宣伝に活用することもできます。

小林さんとのウェブ取材の一幕。下の画像では自社アプリ「Feelyou」の壁紙を利用した背景に切り替えています。このように、背景を利用して自社サービスの雰囲気を伝えるなど、宣伝に活用することもできます。

「ここまでの話でわかるように、ウェブ会議のツールならではの特性を除けば、基本的にはこれまでのビジネスにおけるコミュニケーションと大きく変わることはありません。ただ、直接会わないからこそ、相手の性格やニュアンスを察知して臨機応変に対応できないと信頼関係は築くことは難しい。だからこそ、リモートトラストを意識して磨いていくことが大切なのです」

「リモートトラスト」の有無で僕らのキャリアはどう変わる?

では、このような「リモートトラスト」を意識して身に付けることは、キャリア形成において、どのような武器になっていくのでしょうか。

「『リモートトラスト』が優れている人は、1日で積める経験値の量活躍できるフィールドの広さで有利になります。

極端な例として、アポイントをすべてリモートで行った場合と、逆に対面で行った場合で比べてみましょう。リモートは場所や時間の制約が少ない分、1日のアポイントを対面で行う人よりも多く入れられます。その差は2倍、3倍ともいえるでしょう。

さらに信頼を得られるのは、足を運べる範囲だけではなく、全国各地、あるいは世界中までもが、重大な意思決定を伴うビジネスコミュニケーションを図れる範囲になります。

緊急事態宣言が解除されたとはいえ、ますますテレワークが浸透すると共にウェブ会議も一般的になっていくでしょう。『リモートトラスト』を身に付けていかないと、逆に周囲から取り残されることになると思いますよ」

〈図〉リモートトラストを身につけることによる強み

画像: 「リモートトラスト」の有無で僕らのキャリアはどう変わる?

もちろん、取引先の業種や年齢層などによっては、旧来型の対面式コミュニケーションを重視する企業もあります。そこはケースバイケースであり、相手に合わせることは大前提です。

ただし、「新しい常識を理解してその流れに先手を打っていくべきなのは、過去を振り返ってみても明らかだ」と小林さん。IT革命が起こった90年代を例に、次のように言います。

『リモートトラスト』は、90年代に登場したインターネットや携帯電話によって生じた、コミュニケーションスキルの変化と同じようなものです。

当初はメールもあまり使われませんでしたが、今では常識ですし、メール作成スキルは今では必要不可欠です。テクノロジーの進化とともにビジネスの在り方も変わっていくのが世の常なのです。リモートツールの進化によって、スピード感ある意思決定が可能になる世界が実現されるのなら、ウェブ会議もより増え、オンラインが最終意思決定の場になっていくことも必然でしょう。だからこそ『リモートトラスト』も不可欠なスキルなのです」

コミュニケーションの大転換期である今、チャンスは無限大

一部では知られていながら、なかなか浸透しなかったリモートでの働き方。それが新型コロナウイルスの感染拡大によってある意味強制的に広まった今はコミュニケーションの大転換期であり、大きなチャンスだと小林さん。読者に向けて、こんなメッセージをいただきました。

「特に、若い世代はデジタルネイティブなどと呼ばれ、オンラインでのコミュニケーションには慣れているはず。ネットやガジェットに慣れていないシニア層に比べて、適応しやすいと言う意味で有利だと思います。前述しましたが、『リモートトラスト』を高めて使いこなすことは、持ち時間が増えることでもあります。

より多くの経験値を積めることでチャンスも広がり、成長できるのです。海外とのやりとりも身近ですよね。外国語を話せる方であればグローバルに活躍できるシーンが増えますし、今は優れた翻訳機も登場しているのでコミュニケーションスキルだけでも渡り合える時代なのです。ぜひ『リモートトラスト』を意識して、キャリアアップに活かしてください」

【この記事の著者】

画像2: ニューノーマル時代のキャリアワード#2 小林慎和/「リモートトラスト」は、ビジネスに必須のスキルになる

中山 秀明(なかやま ひであき)

グルメ、ファッション、カルチャー分野を得意とする編集プロダクションを経て、現在はフリーのライター、エディターとして活動。雑誌、書籍、ウェブメディアを中心に、編集や撮影を伴う取材、執筆を行っている。また、フードアナリストの資格をもっており、TV、ラジオ、大手企業サイトなどのコメンテーターとして出演することもある。

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