子どもに質の高い教育を受けさせるためには大きな費用がかかり、経済的な負担は小さくありません。しかしながら現在では0歳から受けられる幼児教育から、大学教育に至るまでの教育費の無償化が始まっています。

教育費の無償化の制度は知っているものの、具体的な内容を理解していない人も多いことでしょう。そこでこの記事では、ファイナンシャルプランナーの氏家祥美さん監修のもと、教育費無償化の3つの種類とその対象者、メリット・デメリットを解説します。この記事を読めば、教育費の無償化について理解することができるでしょう。

この記事の監修者

氏家祥美(うじいえよしみ)

ハートマネー代表。ファイナンシャルプランナー・キャリアコンサルタント。子育て世帯、共働き夫婦の家計相談に豊富な実績を持ち、「幸福度の高い家計づくり」を総合的にサポートしている。オンラインでの家計相談やマネー研修も実施中。

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3つの教育費の無償化と対象者

画像: 画像:iStock.com/JGalione

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教育費の無償化とは、令和元年から始まった国の少子化対策の1つです。日本では現在、少子高齢化が進んでおり、子どもを持たない家庭が多くなっています。その大きな理由の1つとして挙げられるのが、子どもの教育にお金がかかりすぎることです。

そういった現状から、家計に負担をかけることなく子どもが一定以上の教育を受けられるよう政府がスタートしたのが、幼児教育から大学教育までを対象とした教育費の無償化制度です。

以下では、各学校教育における無償化制度の具体的な内容を詳しく解説します。

幼児教育の無償化

幼児教育の無償化では、幼稚園や保育所などの基本的な利用料が無料になります。主な対象施設は以下のとおりです。

  • 幼稚園
  • 保育所
  • 認定こども園

上記に加え、幼稚園の預かり保育や、ベビーシッターも無償化の対象です。しかし、家庭環境によって無償化の内容は変わります。具体的な内容を下記の表にまとめました。

〈表〉共働きやシングルマザー・ファザーで働いている家庭1)

施設無償化の対象かどうか補足
幼稚園、保育所、認定こども園対象子ども・子育て支援新制度の対象とならない幼稚園は、月2万5,700円まで無償
幼稚園の預かり保育対象月1万1,300円まで無償
認可外保育施設対象月3万7,000円まで無償
複数利用(例:認可外保育施設+ベビーシッター)対象月3万7,000円まで無償
複数利用(例:幼稚園+ベビーシッター)対象子ども・子育て支援新制度の対象とならない幼稚園は、月2万5,700円まで無償

〈表〉専業主婦(主夫)がいる家庭1)

施設無償化対象かどうか補足
幼稚園、認定こども園対象子ども・子育て支援新制度の対象とならない幼稚園は、月2万5,700円まで無償
幼稚園の預かり保育、認可外保育施設対象外

幼稚園や保育所、認定こども園は、食材費や行事費などを除いた基本的な利用料は全額無料になりますが、子ども・子育て支援制度の対象とならない幼稚園に関しては月2万5,700円が上限です。

また、幼稚園の預かり保育や認定外保育施設は、幼稚園・保育所・認定こども園を利用できない場合に限り、月3万7,000円まで無償です。ただし、その場合は保育の必要性を市町村から認定される必要があります。

専業主婦(主夫)がいる家庭のように、「保育が必要と認定」されない家庭では、幼稚園や認定こども園の利用が無償化の対象となります。

なお、親の働き方に関わらず、3歳から5歳までの子どもがいる家庭であれば世帯収入の制限はなくこの制度の対象となります。

また、住民税非課税世帯であれば、0歳から2歳児についても保育料が無償化の対象となります。幼稚園・保育所・認定こども園であれば上限なし、認定外保育施設であれば、月4万2,000円まで無償になります。

高校の無償化

高校の無償化とは、高等学校などの授業料を支給する形で、教育費を実質無料にする制度のことです。正式には「高等学校等就学支援金制度」2)といいます。公立高校の授業料に相当する11万8,800円を対象となる世帯に支給するもので、公立高校、私立高校、高等専門学校(1~3学年)、専修学校(高等課程)等に通う生徒のうち、保護者の年収が約910万円未満の家庭に支給されます。

保護者の年収ごとの支援金の金額を以下の表にまとめたので、ご覧ください。

〈表〉高等学校等就学支援金制度の年収別支援金額

保護者年収公立高校私立高校
590万円未満11万8,800円39万6,000円
590万円以上910万円未満11万8,800円11万8,800円
910万円以上なしなし
※両親、高校生、中学生の4人家族で、両親の一方が働いている場合の目安

対象となる保護者の年収の基準額は、家族構成によって異なります。公立よりも授業料が高い私立高校については、年収590万円未満であれば、最大39万6,000円が支給されて授業料に充当されます。ただし、無償化の対象はあくまでも授業料なので、教科書代や制服代、修学旅行代などは別途必要になります。

大学の無償化

大学の無償化とは、以下の大学や専門学校への進学者に対して支援金が支給される制度です。正式名称は、「高等教育の就学支援新制度」3)といいます。制度を利用できるのは、住民税非課税世帯、およびそれに準ずる世帯の学生です。対象になる学校は四年制大学だけではく、以下のような学校が含まれます。

  • 四年制大学
  • 短期大学
  • 高等専門学校
  • 専門学校

学校は国公立、私立問わず支援対象です。また、支給内容は下記の2つに分けられます。

  • 授業料等の減免や免除、減額
  • 給付型奨学金などの返済不要な奨学金

授業料の減免額は、進学する学校の種類によって異なります。

〈表〉各学校の授業料等減免上限額(年額)

国公立私立
入学金授業料入学金授業料
大学約28万円約54万円約26万円約70万円
短期大学約17万円約39万円約25万円約62万円
高等専門学校約8万円約23万円約13万円約70万円
専門学校約7万円約17万円約16万円約59万円

〈表〉各学校の給付型奨学金の給付額(年額)

自宅生自宅外生
国公立大学・短期大学・専門学校約35万円約80万円
高等専門学校約21万円約41万円
私立大学・短期大学・専門学校約46万円約91万円
高等専門学校約32万円約52万円

なお、住民税非課税世帯に準ずる世帯の場合には、支給額が住民税非課税世帯の2/3もしくは1/3となります。

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教育費が無償化されるメリット・デメリット

画像: 画像:iStock.com/takasuu

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教育費の無償化には、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。以下では、メリットとデメリットに分けてそれぞれ解説します。

メリット

教育費の無償化のメリットには、次のポイントが挙げられます。

  • 子育てへの金銭的不安が解消される
  • 通わせる学校の選択肢が広がる
  • どんな家庭でも教育をあきらめなくて済む

教育費の無償化の最大のメリットは、教育にかかる金銭的負担が大幅に減ることです。特に子どもを持つ20代や30代の世代が抱える大きな不安は、子育てや教育にお金がかかることでしょう。

通わせる学校の選択肢が広がることもうれしいポイントです。今までは、家庭の事情や金銭的な理由で、授業料の高い私立への進学をあきらめたり、進学自体を断念したりするケースもありました。教育費の無償化が進んだことで、幅広く志望校を目指しやすくなりました。

デメリット

教育費無償化のデメリットには、次のポイントが挙げられます。

  • 待機児童が増加する
  • 財源確保に伴って消費税などの増税の可能性がある

主に、子どもの多い地域に住んでいる家庭やその自治体にとって、一定のデメリットが生じるでしょう。誰もが幼児教育を受けやすくなることで、たとえば、子どもが多い地域や保育所の数が不足している地域では、待機児童が発生するかもしれません

実際に、東京都では待機児童が社会問題になっています。保育施設の数を増やす、スタッフの待遇を改善して就労希望者を増やすなど、待機児童の対策をしていく必要があります。

また、教育費の無償化により個人の負担は減りますが、支出が増えることから行政への負担は大きくなります。もともと、幼児教育の無償化は消費税を10%に増税したタイミングで行われたものでしたが、制度を維持・継続していくために、今後さらに何らかの増税が行われる可能性も否定できません。

教育費の無償化と財源の確保については、まだまだ工夫や議論の余地があるでしょう。

教育費が無償化されたのはなぜ?

画像: 画像:iStock.com/violet-blue

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教育費の無償化が実施された大きな理由は、金銭的な理由で子どもを持ちたくないと思う国民が多いためです。

〈図〉妻の年齢別にみた、理想の子ども数を持たない理由(予定子ども数が理想子ども数を下回る夫婦)4)

画像: ※妻が50歳未満である初婚同士の夫婦のうち、予定子ども数が理想子ども数を下回る夫婦(約3割)を対象に行った質問(妻が回答者)。

※妻が50歳未満である初婚同士の夫婦のうち、予定子ども数が理想子ども数を下回る夫婦(約3割)を対象に行った質問(妻が回答者)。

上記のとおり、理想の子ども数を持たない人が、金銭面に不安を抱えていることは如実にデータに表れています。また、34歳以下の人に至っては、約80%の家庭が経済的な理由で子どもを産むことをためらっています。教育費の無償化が導入されたことで、こうした不安が払拭されていくかもしれません。

教育費はいくらかかる?

画像: 画像:iStock.com/SB

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教育費は、公立か私立どちらの学校に通うかによって大きく異なります。公立の学校と私立の学校の1年間にかかる教育費を以下の表にまとめたので、ご覧ください。

〈表〉公立学校の教育費5)

小学校中学校高等学校(全日制)
学校教育費6万3,102円13万8,961円28万487円
学校給食費4万3,728円4万2,945円
学校外活動費21万4,451円30万6,491円17万6,893円
合計32万1,281円48万8,397円45万7,380円

〈表〉私立学校の教育費5)

小学校中学校高等学校(全日制)
学校教育費90万4,164円107万1,438円71万9,051円
学校給食費4万7,638円3,731円
学校外活動費64万6,889円33万1,264円25万860円
合計159万8,691円140万6,433円96万9,911円

特に私立の場合、1年間の教育費総額が中学校では140万円、小学校では160万円に上ります。私立の小学校では、学校の授業料も高額ですが、学校外活動費の平均も随分と高額なことがわかります。

大学の学費については、以下のとおりです。6)7)

  • 国公立大学:約240万円(4年間)
  • 私立大学:約400万円〜540万円(4年間)
  • 私立大学(医歯系):約2,350万円(6年間)

私立大学では、文系学部より理系学部の学費のほうが高い傾向にあります。特に医歯系の大学や学部では、6年間分の授業料を払う必要があるため、学費も高額になります。

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教育費の効果的な貯め方

画像: 画像:iStock.com/Nattakorn Maneerat

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幼児教育から大学教育まで、多くの教育費が必要です。通う学校によっては、入学から卒業までに1,000万円以上もかかるケースもあります。

では、教育費を効果的に貯めるにはどのようにすればよいのでしょうか。以下では、児童手当や保険などを使った、教育費の効果的な貯め方を紹介します。

  • 児童手当
  • 学資保険
  • 預金
  • つみたてNISA

確実なところで、児童手当を受給できる人は、児童手当を貯めていきましょう。児童手当は指定した金融機関の口座に4カ月分ずつまとめて振り込まれますが、そのままその口座に手を付けないでいるだけでも自然と貯められます。

児童手当

児童手当の金額は、0歳から2歳までが一人あたり月1万5,000円、3歳から中学校卒業までが月1万円になります。ただし、第3子以降については3歳から小学校修了前までも月1万5,000円が支給されます。

また、児童手当には所得制限があります。世帯主の年収が960万円を上回ると、支給額は一律月5,000円になります。また、2022年10月からは、世帯主の年収が1,200万円以上の世帯の場合、扶養家族の人数に関わらず児童手当を受け取れなくなることが決まっています8)

学資保険

学資保険も、教育費を貯める方法の1つです。学資保険は貯蓄型保険であり、毎月決まった保険料を支払うと、高校や大学進学時に多額の教育費を受け取ることができます。支払い方法は、口座からの自動引き落としなので簡単です。

預金

預金の方法は、普通預金や定期預金が一般的ですが、企業によっては財形貯蓄制度を設けているところもあります。財形貯蓄とは、給料から毎月一定額を天引きする形で貯蓄をする方法です。引き出し時には会社で手続きをする必要があります。「自分で預金口座に貯めると使ってしまいそうで不安」という人におすすめです。

つみたてNISA

少額で運用するNISAです。40万円×20年間まで非課税で投資が可能です。対象商品は積立投資に適していると認められた投資信託やETF(※)です。投資信託やETFへの投資には値動きのリスクがあり、元本割れの可能性もありますが、売却益や配当金で得た利益に対して税金が免除されるといったメリットがあります。

教育費の貯め方については、下記の記事で詳しく説明しているので、併せてご覧ください。

【関連記事】教育費のおすすめの貯め方について、詳しくはコチラ

※ETFとは上場投資信託の略称で、日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)など特定の指数に連動するように運用されている投資信託です。

まとめ

画像: 画像:iStock.com/Yagi-Studio

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教育費の無償化の内容を詳しく解説しました。改めて重要なポイントをまとめると、以下のとおりです。

  • 3歳から5歳までは、幼稚園や保育所が無償になる
  • 高等学校でも、保護者の年収が約910万円以下であれば就学支援金制度が利用可能
  • 住民税非課税世帯では、大学で授業料免除や減額といった制度が利用できる
  • 児童手当をすべて貯めていくと、大学費用を効率よく貯められる
  • つみたてNISAをうまく活用すれば、非課税で資産運用ができる

それぞれの家庭の事情によって、どの教育費の無償化が対象となるかは異なるので、この記事を参考にしっかりと把握しましょう。

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