選択的夫婦別姓などの議論の中で注目されている「事実婚」。実際のところ、事実婚とはどのような関係のことを指すのでしょうか? この記事では、事実婚と認められるための手続きや、同棲や法律婚との違いについてご紹介します。さらに扶養手続きや子どもが生まれた時の手続きなど、ライフステージごとに役に立つ情報もお届けします。

この記事の監修者

上谷 さくら(かみたに さくら)

福岡県出身。青山学院大学法学部卒業後、毎日新聞社に入社。新聞記者として勤務した後、2007年弁護士登録。犯罪被害者支援弁護士フォーラム事務次長、法務省「性犯罪に関する刑事法検討会」委員、第一東京弁護士会犯罪被害者に関する委員会委員。女性の一生に寄り添う【六法+α】の法律集「おとめ六法」著者。

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事実婚とは? 同棲や法律婚との違いを解説

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「あの夫婦は事実婚だ」とか、「内縁の妻」「内縁の夫」などという表現をしますが、そもそも事実婚とはどんなものなのでしょうか。いわゆる一般的な結婚(婚姻)や、同棲、婚約といった言葉との違いについて法的な観点で見ていきましょう。

事実婚とは、婚姻届を出さない結婚生活のこと

いわゆる結婚とは、法的には「婚姻」といい、婚姻届を市区町村役場に提出し戸籍上の「配偶者」となることを指します。この記事では事実婚と区別するために「法律婚」と表記します。

これに対して事実婚は婚姻届を出さないで結婚生活を送っている関係(状態)です。つまり婚姻の意思と共同生活の実態があれば、事実婚と言えます。決まった法律上の手続きはありません。

法律婚との違い

法律婚をした二人は、夫婦として様々な責任を持つことになります。あまり意識されていないのですが、婚姻関係にある二人の義務や権利については「民法」に事細かく規定されていますので、その一部をご紹介しましょう。

(1)「姓」の共有

現行の「民法」では夫婦は妻か夫どちらか一つの姓(氏)を使うことになっていて、婚姻後は片方の姓に統一しなければなりません。ただし、最近では運転免許証や住民票、マイナンバーカード、印鑑登録証明書などの公文書で「旧姓併記」が認められるようになってきています。あくまでも旧姓併記のため、旧姓単独で記載することはできません。

(2)相互扶助の関係

「民法第752条」では「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。」と明記されています。つまり、「法律婚」の夫婦は、子を含む夫婦一体として共同生活に必要な衣食住をともにする義務があります。

(3)婚姻費用の分担義務

「法律婚」の夫婦は、保有する資産や収入等に応じて、婚姻から生じる費用(婚姻費用)を分担する義務を負っています(民法第760条)。婚姻費用とは食費、衣服代、住居費、光熱費、教育費、医療費など生活に必要な経費を指します。たとえ別居していても法律上の夫婦である限りは生活費を分担することになります。

事実婚は「婚姻の意思がある」という状態のため、お互いに対して一定の法的拘束力が発生します。二人の関係や共同生活の実態によってその責任の度合いは様々なケースがあり、必要に応じて弁護士などに依頼しながら対処していくことになります。
一方法律婚では、責任と同時に社会生活を営む上で様々な権利を持つことができますが、事実婚ではそうした権利は制限されることがあります。

たとえば、重い病気やケガで本人が意思表示できない場合に、配偶者が代理で手術をすることや治療方針について同意することがあります。しかし事実婚の場合は、病院によってはこれが認められないことがあります。

また、事実婚では、税法上は配偶者としては認められないので、配偶者控除や配偶者特別控除などの税金の優遇は受けられません。ただし、社会保険上においては事実婚であっても一定の条件を満たせば「第3号被保険者」となり(つまり扶養となることができ)、その期間は年金分割が認められます。その手続きについては後述します。

同棲との違い

同棲との違いは「お互いに婚姻の意思があるかどうか」です。どちらか一方が婚姻の意思を表明しているだけだったり、そもそも意思がなかったり、お互いの意思確認をしないまま共同生活を送っている関係であれば、事実婚とはなりません。同棲は、法的には一般的な男女関係と同じ扱いとなるため基本的には法律婚に準じた法的拘束力はありません。

婚約との違い

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婚姻の意思があっても婚姻届を出していない状態という点では「婚約」は事実婚と共通しています。婚約も、事実婚と同様に法的な手続きがあるわけではないので、お互いの意思や第三者からそのように認知されているかどうかが判断のポイントとなります。ただ、事実婚はあくまで主体的に婚姻届を出さないと決めて共同生活を行っているのに対し、婚約は将来婚姻届を出すことを前提としていること、また一般的には共同生活を行う前の段階であるという違いがあります。

事実婚を選ぶのはどんな人?

(1)夫婦別姓を望む人

事実婚を選ぶいちばんの理由は、どちらか一方が姓(氏)を変えなくてもいいということでしょう。今の日本では選択的夫婦別姓が認められていないため、仕事などの理由で姓を変えたくないと思っている方や、アイデンティティとして夫婦別姓で暮らしていきたいと思っている方が、話し合った上で事実婚を選択していると考えられます。

(2)離婚経験者で法律婚を避けたい人

離婚経験者で法律婚を避けたいと考えている方が選ぶケースもあります。法律婚を解消するために、お互いに同意すれば簡単に離婚できますが、一方が離婚を拒否した場合には調停・裁判の手続きをとることになります。裁判にまでなると、不貞行為など法律上の離婚事由が存在しなければ離婚することができません。そのため、ケースによっては離婚するために多大な時間と労力がかかることがあり、離婚経験者で過去の経験から再婚時に事実婚を選択する人もいるようです。

(3)LGBTQ+で同性同士の結婚関係を認めてほしい人

近年注目されている「パートナーシップ制度」も、この事実婚の一つとも言えます。パートナーシップ制度とは、同性カップルを婚姻に相当する関係と公認する制度で、自治体がLGBTQ+(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クエスチョニング)ら性的少数者の権利を守り、独自の証明書(パートナーシップ証明書)を発行します。この認証によって、異性間の婚姻と同様な行政・民間サービスや社会的配慮を受けやすくするものです。ただし、自治体によって受けられる権利は異なり、対応している自治体はまだ限られています。

事実婚が認められるための手続き

画像: 画像:iStock.com/skynesher

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事実婚は、前述のとおり特定の届け出があるものではなく、お互いの婚姻の意思と婚姻生活の実態があれば成立します。しかし、それを立証することは容易ではありません。では、事実婚と認められるためにはどのような方法があるのでしょうか? 一般的な例を紹介しましょう。

婚姻の意思があることを表明する

まず、お互いの婚姻の意思を客観的に表明することが重要です。具体的な方法として以下が挙げられます。

  • 結婚式を挙げる
  • お互いの親族の顔合わせで事実婚を報告する
  • 年賀状や挨拶状などで結婚日を記載した結婚報告をする

住民票に「夫(未届)」「妻(未届)」と記載する

一般的には、上記のような婚姻の意思を表明した証拠があれば事実婚と認定されやすいですが、その他に、住民票を届け出る際に続柄を「世帯主」に対して「夫(未届)」又は「妻(未届)」と記載する方法があります。この事実婚を証明する住民票は、夫と妻のどちらかが社会保険上の扶養となる時に必要になります。

公正証書の作成などその他の手続き

事実婚の証明として公正証書を作成する方法もあります。二人に婚姻の意思があることを明記した事実婚契約書や遺言書をつくり、公正役場で公正証書として作成してもらいます。これらの手続きは、事実婚と認定されるためだけでなく、財産分与、慰謝料など法律婚を同じような権利や義務を持って結婚生活を送るために行うことが多いです。

事実婚の生活や二人の関係をよりよくするために必要な手続き

画像: 画像:iStock.com/ Junichi Yamada

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扶養に入るための手続き

事実婚でも健康保険料や国民年金保険料に関しては、生活の実態をもとにして判断されます。そのため、事実上の婚姻関係と判断されれば、法律婚の夫婦と同様の保障を受け取ることができます。1)

具体的には、妻または夫の年収が130万円未満の場合、社会保険上の扶養、つまり「第3号被保険者」となることができるので健康保険料や国民年金保険料が免除されます。

扶養の手続きは、法律婚の場合と同様、保険者の勤め先を通じて日本年金機構や健康保険組合に届け出ます。

事実婚の場合、扶養の手続きに必要な書類は、以下のとおりです。

必要な書類備考
被扶養者異動届扶養する人の勤務先から取得します。
扶養者認定対象者現況届扶養する人の勤務先から取得します。
住民票世帯全員が記載されている書類が必要です。
単なる同居人ではなく、事実婚であることを証明するため、続き柄に「夫(未届)」「妻(未届)」の記載が必須となります。
戸籍謄本(抄本)事実婚の夫婦の双方の書類が必要です。
※戸籍謄本は、夫婦双方に法律上の配偶者がいないことを証明するために必要となります。なお、事実婚では、お互いの戸籍を代理で取得する場合は委任状が必要となるので注意しましょう。

これらの書類以外に、扶養される側が一年以内に退職した場合や、パート・アルバイト、不動産収入がある場合など、ケースによって追加の書類が必要となります。詳細は日本年金機構のホームページ2)をご覧ください。

遺贈のための遺言書の手続き

画像: 画像:iStock.com/ takasuu

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一方が亡くなった場合、事実婚では、残された妻または夫は法定相続人になれません。両親や子、兄弟姉妹が法定相続人となり、事実婚の相手は遺産を受け取ることはできないのです。そのような事態を防ぐために、事前に事実婚の相手に対して「遺贈」する旨の遺言書を残しておきます。

ただし、事実婚では、遺言書を作成してそこにすべての遺産を妻(夫)に相続させると書いていたとしても、他に法定相続人がいる場合には、その人が遺産を取得する権利は消滅しません。さらに、法律婚の配偶者の場合、相続税の配偶者控除を受けることができますが、事実婚の場合は仮に遺産を受け取ることができても控除が受けられません。あくまでも遺贈の扱いとなり贈与税の対象となります。

ちなみに、事実婚の子どもは認知されていれば、法定相続人になれます。以前は認知されていても非摘出子の場合、法律婚子ども場合の半分しか権利がありませんでしたが、平成25年に法改正され、非摘出子でも法律婚の子どもと同じ権利が得られるようになりました。

遺言の残し方は以下の3種類の方法があります。

□自筆証書遺言
□公正証書遺言
□秘密証書遺言

自筆証書遺言は、遺言者が残された妻(夫)に遺贈したい内容や書いた日付、署名などをすべて自筆で残すものです。法務省の「自筆証書遺言書保管制度」を活用すれば、家庭裁判所による「検認」が不要となり、偽造や変造の心配もありません。3)最も手軽にできる方法ですが、法律上の要件をすべて満たしていないと有効な遺言書とはされません。

公正証書遺言は、公証役場で公証人に作成してもらいます。秘密証書遺言は、遺言の内容を誰にも伝えずに秘密にしたまま書き起こし、公証人に遺言の存在のみを証明してもらう遺言書です。

いずれにせよ間違いがないように専門の行政書士や弁護士に相談しながら作成するとよいでしょう。その際、打ち合わせの時間や弁護士費用・公正証書作成費用がかかります。

子どもが生まれた時の手続きと注意点

画像: 画像:iStock.com/ Milatas

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事実婚の夫婦に子どもができた場合はどのような扱いになるのでしょうか。まず出生届を出すと母親の戸籍に入ることになり、親権も母親が単独で持つことになります。したがって姓(氏)も母親の姓を名乗ることになるのです。

また、父親はその子どもが自分の子どもであることを「認知」してはじめて親子関係が成立し、扶養義務が発生します。父親の姓を名乗るためには、認知した上で、家庭裁判所で父親の戸籍に入る手続きを行い、親権を父親が持つことが必要になります。結局のところ、夫婦どちらかの親権となるため、法的には夫婦で(法律婚で認められている)共同親権を持つことはできません。

事実婚の父親が認知するための手続き

事実婚の父親が生まれてくる子を認知する方法は大きく分けて三つあります。

任意認知生前に認知届や遺言書によって認知される
強制認知調停や裁判によって認知される
死後認知亡くなった後に裁判を起こして認知を求める

事実婚で子どもが生まれた場合、一般的には、市区町村役場の窓口に認知届を提出して認知を行います。届け先は認知される子どもの本籍地(実質的に母親の本籍地)、または夫婦の所在地となります。

必要な書類は以下です。

  • 認知届(各市区町村の所定のフォーマット)
  • 認知する子どもの戸籍謄本
  • 父親の戸籍謄本
  • 身分証明書

なお、認知の届け出は、子どもが生まれる前(妊娠中)でも行うことができます(胎児認知)。

その場合は、母親の本籍地の市区町村役場が届け出先となり、認知する父親の戸籍謄本と、子どもの母親の承諾書が必要です。
胎児認知を行うことで、出生届の父母欄に両親の名前を記入することができます。

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事実婚契約書の手続きとその効力

画像: 画像:iStock.com/ tdub303

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事実婚が解消された時に、結婚生活の間に築いた二人の財産はどうなるのでしょうか? この点に関しては法的には明確でないものの、これまでの判例では事実婚であっても法律婚と同じように財産を分け合うことが認められたことがあります。また、不倫など不貞行為が原因で事実婚を解消することになった時に慰謝料を請求することも可能です。

こうしたケースの場合に重要になるのは、事実婚が始まった期日が明確に証明できることや結婚生活の実態があることですが、権利を主張するために最も確実なのは「事実婚契約書」を取り交わし、財産や不貞行為があった時の対処について取り決めておくことです。

事実婚では、日々の生活の中で、あるいは関係が解消された時に、財産などのお金の面や子どもの親権などについて法律婚と比べると曖昧になりがちです。そうした夫婦としてのあり方をお互いに話し合い、納得したことを口約束にせずに明文化するという目的であったり、住民票などと同様に事実婚であることを認めてもらったりするために契約書を交わします。

この契約書に何を盛り込むかについては、特に規定はありませんが、基本的には、法律婚の夫婦が民法で定められているのと同じ夫義務や権利を記載していくことになります。

〈表〉事実婚契約書に記載する主な内容

  • 当事者間で事実婚関係を成立させる合意があること
  • 事実婚関係をスタートさせた日付
  • 共同生活の間の財産や生活費の分担について
  • 片方が亡くなった場合の財産の遺贈について
  • 不貞行為があった場合のこと
  • 子どもができた場合のこと
  • 関係を解消する時の取り決め
  • お互いの署名

契約書の作成は、婚姻関係の案件に詳しい行政書士などに依頼するといいでしょう。そして、作成した契約書を公証役場で公正証書にしてもらうことで、法的な効力を持つことになります。たとえば、将来的に関係を解消した後、財産分与や子どもの養育費などの支払いが滞った場合に、公正証書があれば差し押さえをすることができます。

事実婚を解消する場合の手続き

事実婚の場合は、法律上の夫婦ではありませんので、離婚届の提出は必要ありません。しかし、結婚生活が長期間にわたっている場合や未成年の子どもがいる場合、夫婦の一方に離婚原因がある場合などでは、財産分与や子どもの養育費、不貞行為があった場合の慰謝料など、様々な事柄を夫婦間で話し合う必要が出てきます。場合によっては調停や裁判となることは法律婚と変わりありません。

そのために前述の事実婚契約書を事前に取り交わしておくことも大切です。契約書がなく話し合いで合意できた場合は、後々のことを考え、協議離婚書や公正証書を作成するようにしましょう。

必要な手続きは事実婚に詳しい行政書士や弁護士に相談を

同棲と同じものと思われがちな事実婚ですが、同棲よりも法律婚に近いメリットがあり、一定の法的責任や権利が発生することがわかりました。パートナーシップの価値観が多様化するなかで、事実婚であっても気持ちの面での絆だけでなく、ライフプランや財産など、お互いの将来をトータルで考えていくことも大切になってきています。

そのためにも事実婚であることが客観的にわかる手続きや各種権利を得るための手続きは事実婚を選択する上ではとても重要です。事実婚のあり方はカップルそれぞれによって異なるため、手続きに当たっては事実婚に詳しい行政書士へ、トラブルの防止や財産については弁護士へ、そして扶養や年金などの経済面では、税理士やファイナンシャルプランナーなど、それぞれの課題に合った専門家に相談してよりよい結婚生活を実現していきましょう。

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