金融広報中央委員会が実施した「金融リテラシー調査(2019年)」1)。そのなかで、金融知識に関する質問を実施したところ、都道府県によって正答率や回答傾向に差があることがわかりました。この差はどこからきているのでしょうか?

そこで、経営コンサルタントでありながら、TV番組でも監修を務める、矢野新一さんに「お金と県民性」に関して取材し、その関係を解き明かしていきます。

連載「県民マネー図鑑」第1回目のテーマは、「緊急時に備えた資金を確保している人の割合」が多い県です。

お話を聞いた人

矢野新一さん

株式会社ナンバーワン戦略研究所
所長。市場調査機関を経て、株式会社ランチェスターシステムズに入社。企業のランチェスター戦略導入に東奔西走。その後、現研究所を設立、現在に至る。著書に『ランチェスター戦略の教科書』『犬猿県』など60冊を超える。

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緊急時におけるお金の備えがNo.1だったのは、“うどん県”!

〈図〉緊急時へのお金の備えをしている人の割合

金融広報中央委員会「金融リテラシー調査(2019年)」より

終身雇用の保証が危うくなっている今、病気だけでなく、失業などの“人生のもしも”が身に降りかかる可能性は考えておくべきことでしょう。

そんな“もしも”へのお金の備えをしている人の割合を、「金融リテラシー調査(2019年)」の結果から見たところ、見事、1位に輝いたのはうどん消費量全国1位の香川県でした。

これに岡山県、三重県が続きます。ちなみに香川県は、貯蓄額から負債額を引いた「純資産額」が全国1位(二人以上の世帯の場合)2)。しかも、同調査の金融知識の正答率も1位でした。お金に強い県民性には学ぶところがありそうです。

県民性博士の矢野新一さんに、それぞれの県民が持つ金銭感覚について伺いました。

うどんを軸にすると、香川県の金銭感覚が見えてくる

画像: うどんを軸にすると、香川県の金銭感覚が見えてくる

まずはトップの香川県から。開口一番、「香川と言えば讃岐うどん」と矢野さん。「雨が少なく水不足だったが故に、米だけでなく裏作で小麦を栽培。香川県民は手先が器用だったこともあり、美味しいうどんが生まれました。このうどんを軸に考えてみましょう」と続けます。

しかし、金銭感覚とどのような関係があるのでしょうか。

「香川では1杯100円でうどんが食べられる店もあります。この100円を“消費の基準”にしている県民が多いんです。全国では珍しく、レンタルビデオ店に100円コーナーが存在しているのも、その一例でしょう」

矢野さんは、「水不足に備えて裏作で小麦をつくる合理性、そして、1杯100円のうどんを基準とする価格意識。こういったところから、香川県民の金銭感覚が向上し、緊急時へのお金の備えにつながっていった」と分析します。

「男女別にみると、男性は緻密で合理的。価格意識も強くお金には細かい。女性は考え方が現実的で経済観念も発達。生活も堅実で浮ついたところがありません。また、東大や京大卒業者を多数輩出してきた教育熱心な県でもあります。そのあたりが、金融知識に関する質問の正答率の高さにも関係しているのでしょう」

職人気質の岡山県と商人気質の三重県

画像: 職人気質の岡山県と商人気質の三重県

では、2位と3位についても見ていきましょう。

2位の岡山県についてはどうでしょうか。そもそも岡山県は、奈良時代の昔から製鉄が盛んだった地域。それ故、鍬や刀などを生産し、大阪へと運んでいました。矢野さんの言葉を借りれば「岡山は大阪の製造ライン的存在」として、早くから大商業圏に目を付けていたそうです。

「古くからモノづくりが身近にあったという歴史的経緯もあり、岡山県民は職人気質で真面目。仕事が終わったらすぐに家に帰るのも岡山県民の特徴です。しかも、早くから大阪に目をつける理知的な合理性があります。いつ、収入が途絶えるかわからない職人で、しかも合理的な思考ができるのなら、緊急時へのお金の備えをしっかりしているのは当たり前の話です」と矢野さん。

3位の三重県は、ずばり「伊勢商人」の気質が関係しているとのこと。最も有名なのは、現在の“三井”の祖である越後屋を江戸に出店した三井高利。時代劇などでよく見かける「伊勢屋」の屋号も、その多くは伊勢商人が開いた店なのだとか。

矢野さんは「商人なので、結局はお金に細かい。また、安定を求める気質があり、それらが合わさって、緊急時に備えたお金を確保している割合が高くなっているのでしょう」と分析します。

緊急時にお金を備えている県には理由がある

「緊急時にお金を備えている県にはある程度、共通する県民性がある」と矢野さん。「合理性が高かったり、堅実だったりする県、商売人気質があったりする県は、比較的、緊急時に備えた資金を確保している印象です」と語ります。

確かに合理的に考えれば、万が一の備えは重要。特に、商売人はその大切さが身に染みていることでしょう。今、まったく備えがない方は、自らのライフプランを楽観視しすぎず、合理的に見直してみてはいかがでしょうか。

イラスト/石井里果

笹林 司

ライター。インタビュー記事を中心に、ビジネス、自動車、最先端技術など、様々な分野の媒体に寄稿。複数分野の視点を組み合わせることで、少しだけためになる記事を目指しています。

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